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September 29, 2005

バスルームのあたらしい潮流を知るために(1)

テレンス・コンラン『バスルーム
スザンヌ・トゥロクメ『アテンション・トゥ・ディテール

 従来の家づくりは、主にリビングルームやダイニングキッチンといったパブリックスペースに重点が置かれてきました。家族が団欒を囲み、来客を迎える場所は、いわば家の顔でもあったわけです。一方他人の目にあまり触れないプライベートスペース(寝室、バス、トイレ)は長い間、睡眠と身体の清潔さを保つ最低限の機能さえ果たせれば良しとされてきたのも事実です。

 最近では、パブリックスペース/プライベートスペースという区分、リビングかバスルームかといった間取りの軽重を単純に語ることが非常にむずかしくなってきました。居住者のライフスタイルが大きく変わってきたためです。女性の社会進出、少子化、独身世帯数の増加により家族の単位は昔とくらべうんと小さくなり、居住者の減少により、そもそも家全体がプライベートスペース化してしまったという言い方もできるでしょう。個室の壁を取り払い広々とした1室のように空間を利用するワンスペース・リビングの発想もこれと連動しています。

 家族とは共働きの夫婦二人とペットを指す場合もしばしばです。そこで女性も働いている家庭なら、夫と同じように朝、手早くシャワーを浴びて出勤をしなければなりませんし、帰宅後は夫婦はどちらも一日のストレスからの解放と疲労回復のために、女性ならば美容のためにも入浴に力点を置いた生活を構築したいと考えるようになってきたとしても不思議ではありません。リビングやダイニングももちろん大事だけれど、お風呂だって手を抜くわけにはいかない。こうした社会変動やライフスタイルの変化によって、バスルームにおける快適性の追求というテーマが文字どおりホットになってきたわけです。
 テレンス・コンランの『バスルーム』はもとよりスザンヌ・トゥロクメの『ディテール』もこうした点を踏まえ、スパあるいはリラクゼーション機能の見地にたって現代の「バスルーム」を考察しています。

 前述したように今日のバスルームは働く夫婦にとって仕事のストレスから解放され休養と回復を実現する聖なる場所として積極的な意味を与えられつつあります。

 本来換気が最も必要な空間であるにも関わらず、従来のマンション設計などでは陽射しが入る位置にバスルームやトイレを配置したりはしてきませんでした。ところが最近では、外光がふんだんにふり注ぎ景観が楽しめるビューバスがマンションの売りだったりシースルーのガラス張りのバスルームだったりとパブリックスペースから遮断されずシームレスに繋がっている間取りが好まれるようになってきたのもバスルームに対する価値観の大きな変化を示しています。また従来リビングに集中する傾向にあった娯楽機能もバスルームや寝室にまで拡張しています。浴室スピーカーやテレビ、ジャグージ、はたまた浴槽内照明(クロマテラピー)の人気ぶりは、さながらお風呂がリビングルームかラウンジがごとき空間に変貌を遂げつつあることを意味しています(最新のトイレではスペースもゆったりと割かれ便座から音楽が流れてきたり読書を楽しむ空間としても利用されます。寝室に薄型テレビやプロジェクターと5.1chのサラウンド・システムを導入しベッド・イン・シアターを楽しむ人たちもいます)。もちろん音楽や映像がノイジーに感じられるならばスイッチ・オフで十分な静粛性も確保できるでしょう。またその利便性から寝室近くにシャワールームを設けホテルライクなスタイルにリフォームするケースも増えつつあるようです。『バスルーム』『ディテール』でもシャワー機能だけに特化した水まわりの例がたくさん紹介されています。

 これらの本を眺めていると、特にバスルームに関していえば、リビングの役割がバスルームという本来もっともプライベートだった空間にまで浸透したことが理解できるでしょう。現代の家づくりでは、家全体が世帯主のリラクゼーションのためのサンクチュアリとして機能するよう多角的に進化を遂げており、お風呂はその最前線でもあるというわけです。

 『バスルーム』ではお風呂を逆にリビングルームに持ち込む「リビングバス」というアイデアも紹介されています。本書ではヨーロッパスタイルのリビングバスですが、この発想の延長線上にバリやタイのリゾートホテルのイメージを持ち込んでしまうことも可能でしょう。

 実は水まわりこそ、リビングよりも、配水管や防水加工など大掛かりな設備工事が必要な分、あらかじめ緻密な設計を求められる場所なのです。とかくリビング優先で構想されがちだった家づくりですが、これからはまずバスルームをどうするか?どこに配置するのか?これによってリビングや寝室の配置など全体の間取りが大きく変わってくる点に留意しながら理想の家づくりを考えたいものです。リフォームや新築を考えている方たちのアイデアソースとして、この2册も限りないイマジネーションを提供してくれるに違いありません。(スタイル編集子)

é.t. : September 29, 2005 11:45 AM

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