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August 05, 2005

H.R.ギーガー『ネクロノミコン1』『ネクロノミコン2』奇跡的復刊なる!

ph_050808_01.jpg昨年8月の『ギーガ−ズ・エイリアン』を皮切りに今年1月、3月と続いた『ネクロノミコン1』『ネクロノミコン2』のリリースは、日本語版としてはいずれも4度目の復刊だ。これら大判の画集群が、しかもギーガー氏が世界的に知られる契機となった貴重なエディションが、この時期復刊できたことは奇跡的ともいえる。御承知のとおりリドリー・スコットと『ネクロノミコン』との出合いによってSFホラー映画の古典的名作「エイリアン」が誕生することになったのだが、このオリジナル版は1977年、スイス、バーゼルのスフィンクス社から刊行された(『ギーガ−ズ・エイリアン』も1980年にスフィンクス社から刊行)。ブック・デザイン、レイアウトはすべてギーガー氏自身が監修。従って各国語版はテキストのみの差し換えによってつくられている。
『ネクロノミコン』は、80年代に入ると出版不能になったスフィンクス社からエディション・クロコダイル(スイス)に引き継がれ、『ネクロノミコン2』『バイオメカにクス』等のシリーズはここから出版されることになる。したがってトレヴィル版、そして各国での『ネクロノミコン』シリーズはすべてエディション・クロコダイルから版権を取得している。問題は近年ギーガー氏とエディション・クロコダイルとの関係があまり良好ではなさそうな点にある。事実、以降の作品集はタッシェンなどから刊行されており、スイス本国版を含め『ネクロノミコン』シリーズは海外版もほとんど欠品のまま、ほとんど重版されていないのである。『ネクロノミコン』があまりにも大判なため制作費がおそろしく嵩むという事実もさることながら、著者と版元との関係もすくなからず影響していると推測できる。実は今回我々は両者の調停に最も時間を裂かれることになった。しかしながらこの大判の『ネクロノミコン』に我々が固執したのは、その大きさに理由があるからだ。図版下の作品サイズを一瞥していただきたい。オリジナル作品がいかに巨大であるか了解されるだろう。代表作の「墜道神殿」(『ネクロノミコン1』所収)は240cmx280cm、「風景」(『ネクロノミコン1および2』)は140cmx200cm〜70cmx100cm、「リー2」(『ネクロノミコン1』)は200cmx140cm、「エイリアン・モンスター」(『ギーガ−ズ・エイリアン』)は140cmx140cmといった具合。古典画家たちの作品と引きくらべれば決して大きくはないが、現代の基準からすれば十分に大きな作品であり、これはまぎれもなく画家の所業なのである。またこれらギーガーの絶頂期の作品群は原画を撮影したフィルムから制作されているが(コンディションが最も良いフィルム原稿を使用しているのだ)、以降の小型出版物は残念ながらオリジナル・フィルムが散逸してしまった以降の印刷物のため、他の印刷物からの複写(あるいは複写の複写)で画質が極めて劣悪なのだ。今回のアル・サンピエールのギーガー回顧展のカタログ*ですら複写原稿がめだち原画の神々しさをなかなか伺い知ることが出来ない。
いずれにせよ今回の復刊はエディシオン・トレヴィルからのたっての希望にギーガー氏が応えてくれた結果だった。我々は当時セゾングループの一員として1987年、はじめて日本全国を巡回する大々的なギーガー展をものし、これによって空前のギーガー・フィーバーが巻き起こった。飛行機嫌いで知られるギーガー氏の東京招聘にも成功し、ギーガー氏は今迄極東の小国という認識にすぎなかった日本のそのマーケットの大きさとファンの熱狂振りをまざまざと体感したのである(その後出版された『バイオメカニクス』はこの時の日本滞在がテーマになった)。現在スイスにあるギーガー・バーが、もともと東京白金につくられた店の転生であることを記憶されている方も大勢いらっしゃるのではないだろうか。

約20年前に携わった一連の日本語版のシリーズが何とかこうして復刊できたことは編集者として望外の悦びである。しかし、出版までの道筋を振り返ると、やはり今回はギーガー氏の好意による奇跡的な復刊だった。最新の年譜や旧版でギーガー氏が抱いていた色調に対する不満も氏の指示のもと修正を加えることができた。いずれも高額な作品集ではあるが、20年前、洋書では1万円はした画集たちである。天才H.R.ギーガーの作品集が最も高いクオリティで手元における最後の機会かもしれない。ファンならずともこのタイミングで大判『ネクロノミコン』シリーズを入手すべし、なのだ。(K)

é.t. : August 5, 2005 08:20 PM

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