September 08, 2005

ベクシンスキー』(1997)出版をめぐって。(その3)

 渡仏前どの作品を収録するか過去に出されたベクシンスキーの作品集からイメージを絞り込み、ドモショフスキーと会う時には最終的なセレクションをほぼ決定していました。また彼から事前に『バイオマニエリズム』のテーマにぴったりではないかと、彼が代理人をつとめる仏人画家ミシェル・アンリコという作家の紹介がありました。エジプト文明の影響、身体のミイラ化・密室幽閉を志向する乾いた身体イメージがとても印象深く、この作家のアンソロジーへの採用も決めていました。ベクシンスキーもアンリコもともに過剰なほど死の匂いが漂った素晴らしい作品を生み出していましたが、ではアンリコの画集がなぜ成立しなかったのかといえば、それは作品量の圧倒的な違いにあります。あの時点ではアンリコの主要作品は『バイオマニエリズム』に収録した数点で十分と判断したのですが、ベクシンスキーの桁外れの創作意欲・多産ぶりはギーガーにまさるとも劣らないほどで、やはり100ページ近い作品集が最低でも必要だと思われました。残念ながらこの画集に収録できなかったイマジネーション溢れる作品がまだまだたくさん存在します。また60年代後半から70年代前半に多数制作された黒炭によるモノクロ作品もとてもすばらしいのですが、本書ではほんのその片鱗しか紹介できていません。とにかくまずはこの『ベクシンスキー』を無事復刊し、より多くの読者に、ポーランドが生んだ希代のファンタスティック・リアリズムの画凶に興味を抱いていただければと考えています。(K)
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é.t. : 01:43 PM | comment (0)

July 25, 2005

ベクシンスキー』(1997)出版をめぐって。(その2)

ベクシンスキーはポーランド人で、当時日本で手に入る作品集はほとんどフランスで出版されたものでした。そのどれもにピョトル・ドモショフスキーという人物が関わっていました。ドモショフスキーはパリ在住のポーランド人画商でベクシンスキーの西側世界での代理人をつとめていたんですね。そこで現地の画壇事情に詳しかったパリ在住の画家林良文氏*を通じドモショフスキーに接触しました。トレヴィルで企画していた『バイオマニエリズム』というアンソロジー画集の出版、それからこの『ベクシンスキー』のモノグラフを続けて作りたい旨彼に説明し図版の提供を要請しました。この『バイオマニエリズム』(1997刊)のなかには、林良文をはじめミシェル・アンリコ、シビル・ルペルト、ジャン・マリー・プメイロルといったフランス在住の個性的な作家たちが数多くエントリーされていたため、1996年夏、各々の作家やドモショフスキーに直接会うべく渡仏とあいなったわけです。残念ながらポーランドのベクシンスキーを訪問することはかなわなかったのですが。(K)

é.t. : 06:33 PM | comment (0)

July 08, 2005

トレヴィル1997年版『ベクシンスキー』出版をめぐって。(その1)

ph_050708_01.jpgベクシンスキー作品を知ったのは、1990年代のはじめの頃だったと思います。銀座のイエナ書店(贔屓の洋書店だったんですけど残念ながら今はお店を畳んでしまいました)で見つけたRamsay社から出されていた『BEKSINSKI』という画集でした。全編ひたすら、死、腐敗、廃墟といったイメージがちりばめられた荒涼とした風景のなかに、時折、ミイラ、もしくは風葬された遺骸のような、あるいはゾンビかクリーチャーのようなものが登場する禍々しい夢魔的な作品集でした。

まず、そのパノラミックな廃墟描写の素晴らしさに衝撃を受け、次に顔相や表情を喪失し骸とも生体とも判別のつかないクリーチャーたちに微かに漂う死とエロスの気配、これにまた魅せられ、作品の今日性を強く感じましたね。これは得体の知れない作風の画家である、尋常ではないと。何としてでも日本に紹介しなければ、と。そこでこの本以外にベクシンスキーの画集はないのか探し回るようになりました。

当時、ギーガーの画集『ネクロノミコン1』に解説文を寄せいただいた伊藤俊治さん(現東京藝大教授)が提唱した『生体廃墟論』(1986年、リブロポート刊)というコンセプトに触発され、現代ヴィジュアル・アートの世界で活躍する内外の作家たちが次々と生み出していたエロス的身体の未来型のを「バイオマニエリズム」というテーマで纏められないかとずっと考えていたところだったので、このベクシンスキーという作家の発見はとても大事件でした。

伊藤さんの『生体廃墟論』という本には、現代の身体表現を考えるうえでいろんな刺激的アイデアが詰まっているのですが、その編集者的一解釈が「バイオマニエリズム」と名付けた、ある種の美学的高みまで登り詰めたグロテスクかつエロティックな身体の発明だったんです。ギーガーのバイオメカノイドはその究極的創造物のひとつだと思います。 (K)

é.t. : 11:55 AM | comment (1)

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